荒滝を出発して、程なく日本の滝百選の滝・布引に着く。 話に聞いていた通り、トイレや観瀑台、駐車場などさまざまな施設が滝の周りに出来ている。 滝から200m上にある駐車場に車を停め、道道布引の滝を見ながら観瀑台まで歩く。 歩きながら、この滝は今まで見てきた荒滝や八丁大滝とは少し趣が違うことに気付いた。 荒滝や八丁大滝の魅力は、主にその豪快さ・迫力にあった訳だが、この布引の滝の魅力は、それとはまったく別の洗練された美しさなのである。 言うなれば荒滝や八丁大滝は男性的であり、この布引の滝は女性的なのだ。 瀑悠紀行のオトマッキーさんは、この滝のことを「三つ指ついて『ようこそおいでくださいました』ってな感じで出迎えてくれる日本旅館の女将風の滝」と書かれていたが、実際この滝を目にしてみて、その表現が実に的を得たものであると実感した。 観瀑台に立って滝を拝む。 三段40mの、静かな斜瀑である。 滝壷のあたりでわずかに上がっている水しぶきが日の光を浴び、小さな虹を見せている。 良く整備された階段を下って、滝の近くまで降りた。 岩肌の余りの滑らかさを見て、改めて造化の妙に感心する。 ふと滝の左手を見上げると、小高い山の山頂付近に赤い鳥居が見える。 興味をひかれて駐車場近くの入口から登ってみると、不動明王の祠である。 この静かな滝に、激しい不動明王は似つかわしく無い気がしたが、ここは不動明王を本尊とする修験道の聖地・熊野権現に近い場所である。 余程古い仏像なのか、お顔は風化が進んで、ほとんどのっぺらぼうに近くなっている。 この仏像が安置されてからの何百年という年月、また自然神としてこの滝が信仰されはじめてからの何千年という年月、そして自然がこの滝を造った、それらとは比較にならない悠久の年月に、思いを馳せた。 |